INTERVIEW01

鞄職人川本 有哉

大学卒業後、


一旦は企業へ就職しながらも、


鞄職人へと転身した川本有哉さんが語る、


職人としてのこだわりから普段の生活まで。


profile

川本 有哉 Yuya Kawamoto

1991年大阪府出身
京都産業大学法学部卒業。一般企業への就職を経て、京都の老舗鞄メーカー河本商店の師匠に弟子入りする。現在は、「お客様の生活をサポートできる鞄を作りたい」という思いから、自身の鞄ブランド「かばんばか」を立ち上げ、デザインを含めた運営における全てを行っている。

かばんばかHP

section1

職人になるまで
自分で鞄を作るとかは全然思ってなかったです

学生時代はデザインやものづくりとは違う勉強をされていたようですが、どうして鞄職人を目指すようになったんですか?

僕の通っていた大学には、法学部や経済学部といった無難な学部があって、卒業したら普通に就職するっていうのが一般的な流れでした。僕もその流れに乗って一旦は普通に就職したんですけど、それを辞めて鞄やろうと思って。で、今に至った感じですね。

鞄をやろうって思ったきっかけがあったんですか?

インド旅してる時に鞄作りたいなって思って(笑)観光目的の一週間くらいの旅行で、特に何も考えずに行ったんですけど、気がついたら鞄を作っていました(笑)

元々鞄作りには興味があったんですか?

いや、家庭科の成績がそれこそ1とかで、裁縫とかめっちゃ苦手で、自分で鞄を作るとかは全然思ってなかったです。最初はデザインをできたらいいかなと思ってたんですけど、でもデザインしようにも、パタンナーって言って設計の人に注文しないとダメじゃないですか。ということは結局自分でデザインもしてパターンもできないと、注文の仕方もよくわからないですし、そこでまた変にお金がかかっても嫌だなと思ったんです。じゃあ一回自分で作ってみないといけないなって思って、そうこうしてたらもう自分でやったほうが早いなってなったんです。それで鞄作ろうって。

鞄作りの工程を一貫して自身でやってしまおうということですね。

そうです。一般的には鞄のデザインをするデザイナーと、設計してパターンを起こすパタンナーと、鞄を裁断して縫製する鞄職人と、販売を行うショップ店員の人の4つのパートに分かれて仕事をされていると思います。僕の場合はもうその辺を全部すっ飛ばしてバーっと一貫して自分でやってます。だから、本当に今だったらどんな鞄でも作れますね。

なるほど。鞄作りの一切を師匠から学んでいると。その師匠の元に弟子入りをした経緯を聞かせてもらえますか?

弟子入りはけっこうビックリするような感じで(笑)師匠が鞄を作っているっていうのをネットでみつけて、バッて来て、鞄作りたいですって言ったら、「食っていきたいんか?」って聞かれて、食べていきたいですって返したら、「ああそうか。じゃあいつでも良いし、俺んとこ来いよ」って言っていただいて、会ってその日に弟子入りが決まりましたね。でも逆に不安じゃないですか?(笑)いつ来ても良いっていうことは、明日でも良いのかなって。で、明日でも良いのかなと思って聞いたら、「おお明日でもええよ。はよ来いよ。」みたいな感じなんですよ(笑)まあ、その時はまだ仕事をしていたので、次の日からは無理だったんですけど、仕事を辞めてからすぐここに来ました。正式に来始めたのが2016年の2月で、そこからお世話になってます。

仕事を辞めると言った時はご家族から反対されませんでしたか?

もう先に辞めときました(笑)そりゃ反対されますしね。今となってはもう若干諦めの境地に来ました(笑)年末も実家に帰ってたんですけど、別にそれほどネガティブな感じじゃなかったので、意外に大丈夫そうだなって思いましたね(笑)

全く収入面での見通しなしに弟子入りされたのですか?

全くなかったですね。貯金を切り崩して生活してました。しかも、最初2、3ヶ月くらいは、ずっとミシンを踏む練習で、収入はありませんでした。いろいろ考えても仕方ないんで、もうやるしかないなって感じですね。

section2

職人としての学び
ひたすらやる。やって体で覚えるしかないんです。

弟子入りして最初はずっとミシンの練習だったんですよね。

はい。一針一針縫っていくんですけど、これがけっこう難しいんですよ。これを上手にできないと、直線でもブレたりしますし、曲線の部分だと、一針一針縫わないと、直進してしまって針穴が付いちゃうんです。革って針穴が付いたら結構目立つので、もう商品にならないんですよ。だから最初にミシンを徹底して練習するんです。これは本当にコツとかあんまりないんですよ。自分でずっとやって慣れていかないとわからないんです。自転車も最初乗り方わからないじゃないですか。これもそんな感じで、やって体で覚えるしかないんです。これができるようになってきたら、注文をいただいて、この鞄はどうやって作っていったら良いのだろうかと設計の部分を考えたりとか、デザインの勉強も含めてそういうことを全部同時並行で走りながらやっていましたね。

ミシンの他にも苦労したことはありますか?

あとは、裁断とか糊付けとか漉き(すき)とか色々あるんですけど、その辺は実践しながら覚えていくって感じです。といっても気をつけないといけないところもあって、例えば革だったら表面に傷のあるところを使ったらいけないとか。自然のものなので牛とかだったら蚊に刺されたりしたら穴が開くんですよ。馬革も使ってるんですけど、競走馬の馬革ってけっこう体に傷があるので、傷のない部分をどうやって効率よくとっていくかっていうのを考えないと、ロスがどんどん出てしまいます。工房にも革の残りがいっぱいあるんですけど、あれは師匠が50年間やってて残ってるものなんです。そういうのも含めるとけっこう色々勉強していかないといけないことがあるんですけど、それもやりつつこうやって製品として形にできるようにはなってきましたね。やって体で覚えるしかないんです。これができるようになってきたら、注文をいただいて、この鞄はどうやって作っていったら良いのだろうかと設計の部分を考えたりとか、デザインの勉強も含めてそういうことを全部同時並行で走りながらやっていましたね。

師匠はどんな方ですか?

鞄を作ってる人ってけっこういるんですけど、やっぱり師匠が1番だと思います。全盛期の頃は1年で20万個作ってたんですよ。200人雇って、営業もされていましたしデザインも自分でしていました。問屋がこういうのを作って欲しいっていうのを持ってきてそれを作るのが普通のメーカーなんですけど、師匠は問屋に向かって自分のデザインしたものを持って行ってたんです。それで自分で数千個とか数万個単位の仕事を取ってきて、それを1年かけて200人体制で作っていくっていう感じでやっていたみたいですね。その仕掛けも全部師匠1人で回していたので、鞄作り以外の経営面に関する知識も尋常じゃないですね。だからやっぱり普通と言ったらあれですけど、僕とかだったらこんなことしないなっていうことを率先してやられている方なんで、近くで見ていてすごく勉強になります。

「ここに来たらなんか面白い鞄がある。」
川本さんの職人としての取り組みとは。

Next

section3

職人としての取り組み
ここに来たらなんか面白い鞄がある。そんなブランドです。

現在のお仕事の内容を教えてください。

「かばんばか」っていうブランドで鞄を作ってて、これは僕が立ち上げた個人のブランドです。

ブランド名「かばんばか」の由来をお聞きしてもよろしいですか?

逆から読んでも。。(笑)っていうのと心情的な部分で、仕事を辞めてまで鞄作りたい!って思ったくらいに "ばかばかしくなるほど" 鞄作りが好きだという思いも込めています。また、ロゴがカバになっているんですけど、カバみたいな鞄を作りたいと思って作った新作がこの「カバック」です。

可愛い!カバの愛らしいビジュアルがモチーフになってるんですね!

これも自分で最初から設計して作ったんですよ。既成の型と違うものを作るのってけっこう難しいんですけど、僕自身いろんな鞄を作ってる間にこういう見たことのない鞄も作れるようになったって感じですね。

機能面でもこだわりがありそうな感じがプンプンします。。

そうなんです(笑)これ実はめっちゃ使い易いんですよ。リュックサックって、背負ってたら財布を出すときに全部降ろさないとダメじゃないですか。それをしないために、片腕を外すと脇の下にファスナーが来るようになってて、そこに財布を入れたりできるポケットがあるんですよ。中にもファスナーポケットがあるんですけど、外のファスナーが全部開くようになっているので、背負いながらでもそこからパスケースとか名刺入れをすぐ出せるんですよ。電車乗ってるときに本読もうと思ったときに本パッと出せたりとか。だから機能的にもめっちゃ使い易いんですよ。ていうので、ただいまご愛顧いただいております(笑)
ちなみに、これファスナー開いたらカバの口みたいに開くんですよ。裏地も付けてて(オーダーメイドで裏地を選べるそうです)、この裏地を付けるのがまたものすごい難しくて。裏地をつけてさらに芯材も入れてるんですよ、型崩れしないように。背中のところはクッション材になってます。だからフィット感もありますし、後ろをナイロンにすることによって通気性も良いんですよ。こういうシンプルだけど機能的で、今までになかったような形をどんどん作っていきたいなっていうのを今は思っています。

販売はどこでされているんですか?

ほぼインターネットですね。あとは、この間も西野さん(キングコング)のトークイベント行ってきたんですけど、前で5分間スピーチをできるチケットが売ってて、そこで喋ったときに知り合った方に買ってもらったりとか。だからほとんどお店には置いてもらわずにインターネットで販売する感じでやってますね。

それはあえて販路を限定しているんですか?

そうですね。百貨店に置いてもらっても手数料とかで4割くらい取られるんですよ。4割も取られたら生きていけないじゃないですか(笑)。あと、同じような品質で、価格を抑えられたものを消費者の方に届けられたら、お互いに良いと思っています。まあでも百貨店で売っているっていうブランド力みたいなのがあったら良いとは思うんですけど、逆にそことの取引がなくなってしまったときに自分がやっていけなくなったりとか、やっぱりこれから鞄を作って生活していくって考えた時に、今まで鞄職人がやってたやり方じゃないやり方をしていきたいなと思ってて。そういうのもあって、今は個人で売っていこうと思ってます。

section4

職人としての生活
地獄の犬小屋みたいなところで生活してます(笑)

お休みはどれくらいありますか?

休みは自分で決めることができるので、だいたい週1回くらい休んでいます。基本的には日曜日を休みにして、月曜日から土曜日働いている感じです。けど土曜日休もうと思ったら代わりに日曜日に働いたりとか、木曜日休もうと思ったら日曜日に働いたりっていうこともあります。

1日の労働時間はどれくらいですか?

それもまちまちで、基本的には9時から18時なんですけど、時には24時間ずっと鞄を作っていることもありますね。ここの場所は時間関係なくずっと使わせてもらえるんです。まあでも結局サイクルがちゃんとしていないからあんまりよくないんですけどね(笑)本当に納期が差し迫っているときとかじゃないとそんなことはあんまりしないです。でも24時間鞄作ってても全然疲れないんですよね。好きなことなんで。と言いつつも、メリハリを付けるっていう意味ではやっぱり休みも定期的にちゃんと取ったほうが生産性も上がりますし、時間管理はしっかりしていきたいと思っています。

ぶっちゃけ、金銭的には食べていけてますか?(笑)

やぁ、際どいですねぇ(笑)具体的に言うと、最近までは1日の食費100円で過ごしていました。前まではシェアハウスに住んでいて、お米をいくら食べても無料だったので、なんとかそれでやっていけてましたが、今は一人暮らしを始めて、お米代がかかるということもあって、1日100円では難しくなってきたんですけど。

凄腕節約家ですね(笑)

まあ僕多分、一ヶ月一万円生活出たら優勝しますよ、軽く(笑)で、今は京都市内に住んでるんですけど、家賃・光熱費入れて2万円くらいなんですよ。

え(汗)すごい(汗)

地獄の犬小屋みたいなところで生活してます(笑)風呂トイレなくて、ドア開けたら窓だけみたいな。今はその辺の生活費を切り詰めて生活してなんとかやってますけど、最悪の月は、それですらマイナスっていう(笑)税金もありますしね。ここに来る前の所得に対する税金がすごくて、食費何十ヶ月分やねんみたいな(笑)

なかなかハードな感じがしますが、辞めようと思ったことはありますか?

全然ないですね。

辛いと思うこともないですか?

全然辛くないんです。それで、辛くなさすぎてダメだなと思ってるんです(笑)誰かに勝ちたいとか蹴落としてどうこうするとか、本当にそういうのないんですよ。それで、今の生活も端からみたらヤバいじゃないですか?食費も100円で、ワケのわからん地獄の犬小屋住んでて(笑)でも全然辛くないから、他の経営者の人とこういう話してると、「お前それあかんやろ、最悪や。それで良いと思ってたらいつまで経っても鞄で食べてけへんで。」って言われるんですけど(笑)まあ確かにそうだなって思うんですけどね。だから、自分のお店を持つかわからないですけど、お店を持てるくらいの稼ぎはちゃんとしていかないとダメだなっていうのはありますね。

今後のビジョンは?
「もう僕はずっと鞄作っときたいですね。」

Next

section5

今後のビジョン
もう僕はずっと鞄作っときたいですね

今後はどのような活動を行っていくのでしょうか?

師匠が口癖のように言うことがあって、誰もしなかったことをしろ、誰もしていないことをしろって毎日言うんですよ。実際、師匠はそれをずっとやってこられた人で、その姿を見ていて僕も今の鞄職人がやっていないことをやっていきたいなと思っています。例えば、今度僕がやりたいと思っていることが、カバックを買ってくれた人皆で集まって河原町四条から三条まで歩いて、三条大橋をカバックで占領して、全員で川の方見て、それで歩く展示会みたいなのをしたいなって思ってて。それで、そこから市バスに乗って、カバックでバスジャックして動物園に行ってカバを見てゴール!みたいなイベントとか。鞄職人の人ってあんまりそういうことする人がいなくて、表舞台に出る機会がないというか。そういう面では、僕はそういうことがけっこう好きで、面白いことしたいなっていうのが強いので、他の人がしないようなことを楽しみながらやっていけたら良いなと思ってます。

イベントとしての楽しさもありますし、広告としての効果も期待できそうですね。

そうですね。人とこうやって喋ったりとか、イベントに行って喋らせてもらうのもけっこう好きです。でもやっぱり、、もう僕はずっと鞄作っときたいですね(笑)全く人との繋がりがなくなるのも嫌なので、天邪鬼なのかもしれませんが、表舞台に立ちつつ、徹底した鞄作りをやっていきたいなと思ってます。

section6

未来の職人へのメッセージ
本気でそれをしたいのかっていうのを
本気で問いかけまくった方が良いと思います

職人を目指す人に向けて、アドバイスをお願いします。

独学で勉強していることって、役に立つときもあると思うんですけど、多分ほとんど役に立たないと思うんですよ。何の仕事にしても、素人が勉強したことがプロの世界で通じるかっていうと、切り口も視点も考え方も全然違うじゃないですか。そこで独学で勉強したことがそのまま役に立つってことは、そんなにないと思います。それよりも先に、やるならやるで、本気でそれをしたいのかっていうのを本気で問いかけまくった方が良いと思います。もし好きじゃなかったら、地獄なんですよ。ものづくりの世界って。だって社長に24時間働いとけって言われたら嫌じゃないですか。残業なんて関係なしで、それこそブラック企業なんて言われてる会社でも比べものにならないじゃないですか。けど24時間やっていても全然疲れないし、めっちゃ楽しい!最高!みたいな感じで言ってるぐらいの好きじゃないと多分続かないと思います。ああやらなかったら良かったなって思うんだったらやっぱりやらない方が良いと思いますし。趣味でも良いんだったら趣味で留めておいた方が良い世界だと思います。

なるほど。自分への問いかけが大事だと

本当にやりたい!ってなって、次のステージに行くんだったら、業界トップくらいの一流のところで学んだほうが良いと思います。正統な技術も学べますし、その人の商いに対しての考え方も勉強できます。やっぱりそういう人ってずっとその業界で食えていってたわけですから、そんな方の背中を見ながら仕事をするっていうのはやっぱりすごい刺激がありますね。今なんて1日100円150円とかで生活していますけど、もしかしたら自分も生活できるようになるんじゃないかなっていうビジョンを描き易くなりますね。誰に教えてもらえるかで学びのスピードが全然違います。そこは本当に妥協しない方が良いと思います。

もし川本さんのところに弟子入りしたいって人が来たらどうしますか?

うーん。多分無理なんですよね。僕の師匠は、金銭的にもゆとりがあるし、全然教えてやるっていう気概もある方なので良かったんですけど。例えば、僕が10年後に大成して、普通にもう食っていけるってなっていたとしても、僕に教えられる余裕があるかって言われたら、それはもうわからないですよね。教えてあげたいですけど。教えるってなったらやっぱり付きっ切りじゃないと教えてあげられないじゃないですか。だから、ものづくりを引き継いでいくってことは、本当に難しい部分になってくると思います。

川本さん自身のビジョンも含めて、これから職人を目指す人はどこに向かうべきでしょうか?

職人だからこそやってて意味があることをしていったら良いと思います。つまり、大量生産ではできないことですね。例えば、その人が欲しい鞄をオーダーメイドで作るっていうのも大量生産ではできないことじゃないですか。その人が欲しいものをその形にする。多分これからテクノロジーがどんどん進化していったとしても、そんなすぐにはそれができないと思うんですよ、現実的に。この間僕の友達が送ってきてくれた鞄があって、お母さんが新入社員で働き始めた時に買った鞄で、3、40年前のものらしいんですよ。それをリメイクして新しく鞄を作って欲しいっていう注文だったんですけど、これも大量生産ではできないことですよね。大量生産で作れるような鞄を作っても、それって売れるかもしれないですけど、それこそ中国とかベトナムに任せておいたら良いことで、僕がしなくても良いじゃないですか。だから、僕は僕でその人に合った鞄を作っていけたら良いなと思ってます。

Editor's Note取材を終えて

京都駅から市バスに揺られて40分ほどの閑静な住宅街に工房はありました。そこに颯爽と自転車に乗って登場したのが川本さんです。のっけから至極爽やかで元気ハツラツ。世間で言われている職人像からは程遠く、まさに学校の人気者といったタイプだと感じました。お話をさせていただく内に、ものづくりに対する姿勢はもちろん、物事を論理的・客観的に考えることに長けており、ご自身のブランドを経営されている起業家としての魅力も感じることができました。独自の視点でものづくりを実践する鞄職人 川本さんの今後に期待せざるを得ません。

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